良性発作性頭位めまい症
突然のめまいに悩んでいませんか?
朝起きようとしたとき、寝返りを打ったとき、上を向いた瞬間――。

突然、目の前の景色がぐるぐると回り出す経験をしたことはありませんか?
このような回転性のめまいに悩まされている方は、良性発作性頭位めまい症(BPPV)の可能性があります。
良性発作性頭位めまい症は、めまい疾患の中で最も頻度が高く、耳鼻咽喉科を受診するめまい患者の約20~40%を占めるとされています。
突然のめまい発作は日常生活に大きな支障をきたし、転倒や怪我のリスクも高まります。
しかし、正確な診断と適切な治療により、多くの患者様が短期間で症状の改善を実感できる疾患でもあります。
当院では、良性発作性頭位めまい症に対してEpley法(エプリー法)などを用いた専門的な治療を行っております。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)とは
良性発作性頭位めまい症は、内耳にある三半規管という器官の異常によって生じるめまい疾患です。
三半規管は、左右それぞれ3つの半規管(前半規管、後半規管、外側半規管)から構成されており、頭の回転運動を感知する重要な役割を担っています。
各半規管の中にはリンパ液が満たされており、頭が動くとこの液体も動きます。
その流れを半規管内のクプラという感覚器が感知することで、私たちは無意識のうちに頭がどの方向に動いているかを認識しています。
この三半規管とは別に、内耳には耳石器という器官が存在します。耳石器には耳石と呼ばれる微小な結晶が約1万粒存在し、体のバランスを保つ働きをしています。
良性発作性頭位めまい症は、この耳石が耳石器から剥がれ落ち、三半規管内に入り込んでしまうことで発症します。
半規管内に入り込んだ耳石は、頭の位置が変わるたびにリンパ液の流れに異常を生じさせ、脳へ誤った位置情報を伝えてしまいます。
この異常な信号により、眼球が異常な方向に動く前庭動眼反射が起こり、激しい回転性のめまいを感じることになるのです。
良性発作性頭位めまい症の症状

良性発作性頭位めまい症の最大の特徴は、頭位変換時に誘発される回転性めまいです。
「天井がぐるぐる回る」「自分が回転している感じがする」と表現される方が多く、そのめまいは非常に激しく不快なものです。
良性発作性頭位めまい症のめまい発作には、以下のような特徴があります。
- 頭を特定の方向に動かしたときにのみめまいが出現する
- めまいの持続時間は比較的短く、通常は数秒から1分以内に収まる
- めまいには前兆がない
また、良性発作性頭位めまい症のめまいには強い吐き気や嘔吐を伴うことがあります。
激しいめまいによる自律神経系の反応として、冷や汗、顔面蒼白、動悸などの症状が出現することもあります。
しかし、耳鳴りや難聴といった聴覚症状を伴わないことが、メニエール病などの他のめまい疾患との重要な鑑別点となります。
良性発作性頭位めまい症の原因
良性発作性頭位めまい症の直接的な原因は、耳石器から耳石が剥離し、三半規管内に入り込んでしまうことですが、耳石が剥がれる理由については、複数の要因が関与しています。
加齢による耳石の変性
耳石は常に新陳代謝によって入れ替わっていますが、50代以降になると耳石器の機能が低下し、耳石の新陳代謝機能が低下します。
古い耳石は次第にもろくなり、ちょっとした刺激で剥がれ落ちやすくなってしまいます。
女性ホルモンの変化
エストロゲンは骨代謝に重要な役割を果たしており、耳石のカルシウム代謝にも影響を与えています。閉経後の女性はエストロゲンが急激に減少するため、耳石の構造が脆弱化し、剥離しやすくなります。
頭部外傷
交通事故やスポーツでの衝突、転倒などによる頭部への衝撃は、物理的な力で耳石を剥離させる可能性があります。特に、頭を強く打った後に良性発作性頭位めまい症を発症するケースは臨床的にも多く見られます。
長期間のベッド上での安静
耳石の剥離を促進します。重力の影響を受けにくい状態が続くと、耳石の配置や代謝に異常が生じ、剥がれやすくなると考えられています。入院治療後や、病気で長期間寝込んだ後に良性発作性頭位めまい症を発症する患者様も少なくありません。
内耳疾患の既往
突発性難聴、メニエール病、前庭神経炎などの内耳疾患は、内耳の構造や機能に変化をもたらし、その結果として耳石が剥離しやすい環境を作り出します。
これらの疾患の後遺症として良性発作性頭位めまい症が発症することが、臨床的に知られています。
骨密度の低下
全身の骨密度が低い患者様は、耳石のカルシウム構造も脆弱であることが多く、良性発作性頭位めまい症の発症率が高く、さらに再発率も高いことが報告されています。
良性発作性頭位めまい症の診断

まず、詳細な問診を実施します。めまいがいつ、どのような状況で起こるのか、めまいの性質、持続時間、随伴症状などを詳しくお聞きします。
特に重要なのは、めまいの誘発因子です。起床時、寝返り時、上を向いたときなど、特定の動きによってめまいが誘発される場合、BPPVの可能性が高いと考えられます。また、耳鳴りや難聴を伴わないことも重要な情報となります。
次に、赤外線カメラを用いて眼振検査(眼球の動きの検査)を行い、特徴的な眼振を観察します。また、他のめまい疾患との鑑別のために聴力検査を実施する場合もあります。
Epley法(エプリー法)による専門治療
当院が良性発作性頭位めまい症の治療において最も力を入れているのが、Epley法(エプリー法)と呼ばれる浮遊耳石置換法です。
三半規管内に迷入してしまった耳石を、段階的に頭を動かすことによって半規管の出口まで移動させ、本来の位置に戻すというもので、重力を利用して耳石を移動させるため、薬物を使用せず、体への負担も最小限に抑えることができます。
エプリー法の手順(右後半規管が原因の場合)
① 診察台に座っていただき、顔を右側に約45度回転させます。
② 仰向けの状態にし、さらに頭部を診察台の端から約30度下に向けます。この姿勢を約2分間保持し、めまいが消失するのを待ちます。
③ 頭部を反対側(左側)に約90度回転させ、この体位を約2分間保持します。
④ 体全体を左側に回転させ、横向きの姿勢にします。顔は斜め下を向いた状態を保ち、約2分間保持します。
⑤ ゆっくりと起き上がり、座位に戻ります。
※専門知識を持つ医師の指導のもと、医療機関で安全に行うことが推奨されます。
エプリー法のメリット
- 薬物や手術を必要としない物理的な手技
- 即効性があり、治療直後から改善を実感する場合が多い
- 1~3回の治療で約90%以上の方に効果が見られる
- 治療時間は10~15分程度で負担が少ない
- 保険診療で実施可能
その他の治療法と生活習慣
薬物療法
抗めまい薬、制吐剤、ビタミンB12製剤などを、補助的な役割として使用することがあります。
早期改善のための生活習慣

・過度の安静は避ける:強い吐き気がなければ積極的に動くことで、耳石が元の位置に戻りやすくなります。
・寝返り運動:寝る前に数回寝返りを打つ習慣が効果的です。
・頭を高くして寝る:枕の高さを適度に保つことで、耳石の再迷入を防ぎます。
・運動療法:当院では、家庭でできるBrand-Daroff法やRolling体操の指導も行っています。
よくある質問
Q: 起き上がる時にぐるぐる回るのは耳のせい?
A: 特定の動作で起こる短時間のめまいは、良性発作性頭位めまい症の典型的な症状です。診察の際に「どの向きで強くなるか」を教えていただけるとスムーズに診断できます。
Q: 自然に治りますか?
A: 自然に軽快することもありますが、放置すると数ヶ月続くこともあります。転倒リスクを避けるためにも、早期の受診をお勧めします。
Q: 高齢者でも治療を受けられますか?
A: はい、エプリー法は副作用のリスクが低く、高齢の方でも安全に実施可能です。全身状態を確認しながら慎重に進めます。















